スタイルと生活

現在のぼくの1か月あたりの撮影量はフィルム13~15本、枚数にすると400~500枚程度になる。正直あまり多いとは言えない。つい最近のインタビューでアラーキーは1日に3本撮ると言っていたけれど、1か月に換算すると約90本、ぼくの6倍以上撮っていることになる(世界の巨匠である写真家と比べるのもなんですが)。

 

ちょっと前まではコンパクトデジタルカメラとフィルムの一眼レフを併用していて、その頃は1か月に3000枚以上撮っていた。1日100回はシャッターを押していたということだ。コンパクトデジタルカメラを使えばそれぐらいは簡単に撮れてしまう。けれど、今年の4月か、5月くらいにデジタルカメラから手を引いてフィルムカメラだけで撮るようになった。

 

理由は「なんとなくよくない感じがしたから」としか言いようがないのだけれど、それはカメラが悪いのではなくぼくの使い方がめちゃくちゃというか、だいぶ荒っぽかったことが大きい。

なにせ掌に収まり、ボタンさえ押せばオートフォーカスでシャッターを切ってくれるものだから、歩いていようが暗がりだろうが人目があろうがなかろうが、とにかく「ここ」というタイミングがあればレンズをその方へ向けノールックでシャッターボタンを押しまくっていた。家に帰ってパソコンでポチポチ写真を見てみると、圧倒的に多いのは「なんだこれ?」とか「撮れてないな」という写真なのだけれど、たまにピントも構図もバッチリ決まっている写真があって、そのときはなんとも言えず気持ちいい。写真によってもたらされる「写真的快感」というものがあれば、あれはまさしくそのひとつだと思う。ピントが合う、構図がはまっている、というのはやっぱり大事なんだな、と勉強になった。

 

けれど、そんなふうに感覚のむくままに、というかほとんど手くせのように写真を撮っているとだんだんせこいことをしている気持ちというか、ちゃんと対象と、くさく言えば世界と向きあえていないような気分になってきた。最初は森山大道の言う「スリのように撮る」みたいな感じに共感を覚えていたので、先に書いたような撮影スタイルにも特に違和感も抱かなかったが、「どうも自分の求めている撮影スタイルというのはそういうものではないのかもしれないな」とわかってきた。

 

フィルムの一眼レフは「これはファインダーをのぞいてじっくり撮りたいな」というときに使っていた。フィルムカメラデジタルカメラに比べるとどうしてもお金がかかる。けれど、少し外に出れば撮りたいと思うものがたくさんある。だからデジタルカメラで「撮りたい欲」をある程度満たしつつ、「これはどうしても」と思うものにフィルムを使っていたのだ。要はデジタルカメラフィルムカメラのふるいでもあったのである。

 

スリのように撮りながら、同時にフィルムカメラのふるいにもしている。コンパクトデジタルカメラでしかできない撮影スタイルがあるのはわかるし、楽しみも理解できる。何だったら向いているのかもしれないな、とも思ったが、撮っている瞬間に感じるぼんやりとした「きたなさ」みたいなものは、感じる以上、自分の写真から取り除いた方がいいだろうと思った。ということで、ここ半年くらいだろうか、撮影はフィルムカメラだけになった。

 

ここで冒頭の話に戻るのだけれど、ぼくは今の自分の撮影量を「少ない」と感じている。客観的に見ても少ないし、主観的にも自分が撮りたいと思う量にいまひとつ足りていない。なんだったらアラーキーのインタビューを読んだとき、「アラーキーが撮っているんだったらおれだってそれくらい撮りたいわ!」と思った。反射的に。

 

けれど、よく考えると、現在の撮影枚数というのは収入も含めた自分の生活状況によって決定されていて、つまり今の自分にとっては自然な撮影量なのである。収入を増やすことができればフィルムの購入、現像に充てる資金が増えるかもしれないが、だからと言って1か月あたりの撮影量が増えるとは限らない。収入が増えると自由時間が減る可能性が高いし、それは撮影時間の減少に(かなり直接的に)つながる。そうなれば、当たり前ながら撮影スタイルが変わる。今まで3日かけて2本フィルムを撮っていたのが、2日まるまる仕事で撮影できる時間はなし、1日休みの日に3本撮る、では同じ3日でも全く撮れる写真が変わってくる。たとえ3日当たりの撮影本数が増えていても、である。そのような実験をして写真を見比べたことがあるわけではないけれど、感覚的にそうだとわかる。写真ってそれぐらい敏感で、繊細なのだ。少なくとも撮影者にとっては。

 

というわけで、今の自分は今の自分が撮れる写真を見つめて、楽しんでいればいいんだなーと思った。だって今の写真は今の日常を送っている今の自分しか撮れないんだもん、たぶん(どれぐらい伝わるんだろう、今回の話)。

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