ブログ休業中のこと―走り書き―

「写真次元」という名前で書いているこのブログだけれど、一月末から三月末まで小説を書いていた。

 

小説を書いているあいだはブログが止まっていました。毎日、一回のブログで書く量の倍以上、小説の文章を書いていたから、ブログに回す力がなかった(書きたい気持ちはずっとあったんだけどね)。

いまは一通り書き終えて、寝かせている時間。とりあえず素材は出来たので、ここからは編集的な時間になる。

 

というわけで、あいだの時間を使ってブログを書く。ちょっとした憂さ晴らしです。

 

拾った

住んでいるアパートのすぐまえで自分の名字のハンコを拾った。もちろん、ぼくが落としたものではない。念のため確認したけれど、ぼくのものではなかった。ぼくの苗字は順位にすると日本で500位くらいの、そう多くはないけれどめずらしいとまではいかない名前で、正直外でひょいと印鑑を拾えるようなものではない。それがアパートのすぐまえの側溝に落ちていて、しかも拾ってしまったものだから驚いた。シャチハタじゃないのが気になるところ、大事な印鑑じゃないといいのだけれど。

偶然の一致は、もともと多いほうだし小説みたいなものを書いているとすこし増えるので(なんじゃそりゃ、と思わないでください。そういうものなのです)、ちょっとやそっとでは驚かないのだけれど、さすがにこれはびっくりしました。

 

進路報告

三月某日、小説があともうすこしで書き終わろうかというデリケートな時期に、実家に帰って家族で会食をした。家族一同が会する場はぼくが家を出、妹が進学をしたことでずいぶん貴重になっていて、加えて春からぼくの仕事が決まったものだからいい料亭を予約してくれ、おいしい料理をいただきました。

さて、その席で妹から重大発表。

「結論から言うと、就職活動はしません。」

高校からぼくとおなじく美術科で学び、大学もそのまま美術系に進学した彼女から意外な一言。なにが意外だったかというと、ぼくとはちがって彼女は、美術はすきだけれどそんなに情熱があるわけではないから、お金を稼ぐために、就職するためにいろいろ考えますよ、というスタンスをそれこそ高校生のときからとってきたからである(こう書いているとすごい妹だな。ぼくはそんなことまったく考えていなかった)。母は以前から話を聞いていたようで「応援してやって」という援護の立場を取っていたのだが、父はというと、

「ちょっと待って。これからのことを想像したら頭がぐるぐるして、話が入って来んようになってもうた」

来年を持って「授業料」という名の悪魔から解放される予定だったのに、なんたる誤算。家族一同、娘がそんな選択をすることになるとは思っていなかったのである。

後日、ふたりきりで話を訊くと、

インターンに行ってみたら、制作と両立するのはむずかしいと思ってん。高校の時の担任も『仕事しだしたら、自分の作品つくることなんて考えてられへんで!』って言ってたし。大学院に行くかはまだわからへんなあ、工房に習いに行くかも。とにかく機材が必要やから、それがある場所に行かんと」

とのこと。

応援したいのは山々だったが、「おいおい、なんでそんなことになっちゃってるんだよ…」という気持ちが否めなかった。しかし、その気持ちはすなわち過去にぼくに対して親族一同抱いていた気持ちであったろうから、その場ではなにも言えなかった。立場が変わると、結構ぞっとするものだ。申し訳ないなと思った。

とはいえ、ちょっと自分とちがうな、と思ったのは、「制作する時間を取るために就職はしない」というスタンスだった。

それほどまでに妹が作品をつくりたいと思うようになったことはとても大きい変化だったのだけれど、ぼくは正直、そういう気持ちになったことはない。ぼくにとってものをつくるというのは一種の呪いのようなものであって、「すばらしいものがつくれたらそりゃいいけれど、しなくていいならそれに越したことはないよなあ」という気持ちが常にどこかにあった。作品なんてつくらなくてもひとは生きているし、そういうひとたちのほうがよっぽど幸せそうにしている。「表現」なんてものにとらわれずもっと人間として、生物としてまっすぐ生きていけたらどれだけいいだろう。けれど、この呪いとはずいぶん付き合いが長く深いので、しぶしぶ引き受けていくしかないのか、とあきらめている次第なのである。

ふつうに働けるのなら働きたいのだが、いかんせん、働くのが嫌いなために(←ふつうにダメなひとと思ってくれたらいいです)何カ月間も無職になったり、なっても平気であったりしていたわけだ。だから、妹が制作のために時間を取ろうとして仕事に就かない、という思考の流れがいまいち理解できない。「ん?仕事に時間を取られて制作できなくなったら、それまでだよ?」というシビアな考えがぼくのベースにはあるし、それで制作せずに済むのならまあいいじゃないかとぼくは思うのだけれど、どうだろうか、妹よ。

とか、いろいろ思ってはみたものの、よく思ったらまだ妹は21歳なんだよね。それに、大学生活はまだ一年あって、そのあいだにもいろんな変化がある。就職活動しないのは決まりだと思うが、まあまあ、まだまだなにがあるかわからないと兄は思うよ。

 

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